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焙煎への取組み

​焙煎のしごと

 当店に限らず焙煎のしごとは、“おいしさ”を焙煎で表現するということになると思います。“表現”というのは、具体的には、浅・中・深煎りにするのか、熱の入れ方はどうするのかなどの焙煎技術を通して美味しさを表現するということだと思っています。

 お店によっては置いてある商品は1つのブレンドだけで、そのブレンドをつくるのに必要な3種ほどの豆だけを繰り返し焙煎している所もあります。一方では、多種多様な国・銘柄の豆を様々な焙煎度で販売する所もあります。

 前者は、同じ豆だけを繰り返し焙煎し続けることでしか見えてこない微妙な変化(特に収穫時期や収穫年のちがい)に気づける技術が得られると思います。後者は、多種多様な個性を持つ豆を焙煎することでしか得られない幅の広い技術が得られると思います。しかし、どちらのアプローチも“おいしさを追求する”ということでは本質的には同じかと思います。​

Changes of beans during roasting

​表現の自由度

 

​ 当店で販売する豆の種類は、店頭に並べる6~7種に加えてその他にもできる範囲で様々な豆の入手をして焙煎をしています。その様々な生豆を見て、触れて、測定して、テイスティングをしてみて、そのつど最適な焙煎条件を組み立てる。そうすることで焙煎技術の幅を広げて、味覚の感度を上げて、原材料のポテンシャルを見極める、そんな経験の積み方を主軸にしています。

 このとき“技術の幅を広げる”ことが意味するのは、「もうすこしマイルドに仕上げたい」とか「この豆の特徴的なアロマを強調したい」など“表現の自由度を高める”ということになります。

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 ところで、原材料となる生のコーヒー豆にはたくさんの味・香り成分の素があることがわかっており、これらの成分に熱を加えることで何パターンもの化学反応を経て味や香りの成分が生成されるそうです。また、コーヒーの味・香りは産地・標高・農園などの生育環境、品種、精製方法などによってちがいがあります。

​ このことから、生豆に含まれる成分にどのような熱の加え方をして味・香りを組み立てて美味しさを表現するかが“焙煎のしごと”と思います。

風味づくり

 

 当店では、各豆ごとに飲み飽きないバランスをねらっています。飲み飽きないコーヒーの定義は十人十色、難しい課題です。単調薄味ではもの足りなく、濃すぎる味では飲み疲れしてしまいます。

​ 食事で言えば調味が強くて食べ始めは美味しさを感じるも、食べ終わるころには味が濃くて胃もたれしてしまうこともあります。

​ それよりも、食材からバランスよくとったダシ・旨みのベースのしっかりした食事は、食べ終わる頃にはまた食べたいという余韻で終わることができると思います。

​ 当店では、焙煎による味づくりも同様に考えています。苦み・酸味は強すぎず、しかし風味の輪郭ははっきりと、余韻は豊かなアロマと甘みが口に残る。そのようなバランスになるように焙煎で味を組み立てています。

鮮度管理

 鮮度がよい=製造年月日から間もないというのが一般的な認識だと思いますが、もうひとつ大事なことは製造された時点からの経時劣化が抑えられているということだと思います。当店では、焙煎前の“原材料(生豆)”と焙煎後の“販売在庫(焙煎豆)”の両方について劣化を抑える保存方法を採用しています。

 まず原材料(生豆)は、入荷時に大袋で到着しますが、すぐに約1kgずつの小分け真空パックにして劣化を防止しています。この方法は少々神経質に思われるかもしれませんが、風味を劣化させない方法として有効であることを実験確認しています。生豆に含まれる水分や各種成分を劣化させないことは、焙煎で風味を発揮させるための大前提となります。(焙煎工程上の理由で、もしくは風味の好みであえて“適切に”枯らしたパストクロップやオールドクロップを扱う店舗もあります。)

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 この生豆は生産地での欠点豆除去作業によって虫食い・カビ豆は非常に少ない状態にありますが、色が悪い豆、欠けた豆、肉薄豆・巨大豆など焙煎後に味に影響を及ぼすと思われる豆を除去する作業を焙煎前に行います。そして、焙煎したコーヒー豆は販売するまで新しい空気に触れないように100gずつ密閉ビンに詰めて、そのビンを温度変化の少ない保管庫で保存しております。

 また当店では豆の販売期限を“焙煎日+12日目まで”としております。販売の最小単位は100gからです。

tomochi coffee

焙煎への取組み

 新しい銘柄もしくは同銘柄でもロットちがいや新穀(ニュークロップ)の豆を入荷したときには、生豆の含有水分%と容積重の測定をして、その数値をもとに商品化するためのテスト焙煎・テイスティングを開始します。商品化までには数回のテストで難なく決まる場合もあれば、焙煎当日はイメージどおりでも数日たった時の風味の変化のしかたによっては、細かい調整のために10数回のテスト焙煎を繰り返すこともあります。さらに商品化したあとにも微調整を行うこともしばしばあります。

​ このテスト焙煎で決定した風味を日々の焙煎でバラツキをできる限り少なく再現するために、1)投入する原材料の状態、2)焙煎機のコントロール、3)焙煎した豆の保管状態、この3点を管理しています。

① 焙煎機に投入する原材料の状態

 焙煎機に投入する原材料は、毎回おなじ状態であることが焙煎工程とその結果の風味を安定させるためには理想的かつ最重要と思います。そのため、原材料入荷時の状態を維持するために、つまり風味の素となる成分や水分を変性させないようにするために1kg単位で小分け真空パック詰めを行って、それらを段ボール箱で遮光保管しております。

 また、焙煎機に投入する直前には生豆温度の測定をして、その値をもとに焙煎条件を微調整しています。

② 焙煎機のコントール精度(焙煎の再現性)

 焙煎の序盤・中盤・終盤、各段階において生豆に適切な熱の加え方をすることで風味をコントロールしています。つまり、風味の再現性・安定性は、豆への熱の加え方の再現性の高さが要点になります。そのため、当店のナナハン焙煎機には、火力・蓄熱・排熱などのコントロール精度をより高める独自の工夫をしています。

 さらに、焙煎中におこなう操作・調整タイミングについて、風味の再現に最重要な操作や、疲れなどによる操作ミスを防止する意味でも操作のプログラム化をしています。各豆によって操作タイミングや操作量、手順数は異なりますが、プログラム化することで焙煎プロセスの見直しのしやすさや修正履歴も残しやすく、産地・精製方法・品種・水分量・硬さが似た他の豆にも技術を展開しやすいというメリットもあります。このプログラムは、排気ファン調整とダンパー操作の組み合わせによって季節によらず通年同じプログラムが使用できます。

③ 焙煎豆の保存

 焙煎したコーヒー豆は販売単位100gごとに密閉ビンに入れ、お客様にお渡しするまでビンの中の空気を入れ替えないようにして、遮光した保管庫で保存しています。

焙煎機 / Roasting machine

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 当店販売のコーヒー豆、ドリップバッグはすべて『ナナハン焙煎機』にて焙煎をしています。一般的に生産設備は基本性能に加えて、耐久性、操作性、メンテナンス性が大切な要素と思いますが、いずれの面においても満足感が高く、また“表現するための道具”として見たときにも愛着をもてるようにデザインが凝っているところも気に入っています。耐久性においてはさらなる向上をはかるため独自に改善しております(後述)。

 ナナハン焙煎機の構造的特徴について、その設計意図については全く知りませんが、使いこんでいく中でトータルバランスや制御性の良さを感じる場面が多々あります。

 たとえば、焙煎中にエアコンの熱交換量の大きな変動があった場合でも、排気ファンの微調整のみで熱的バランスを取りなおせる応答性の良さや、空調で室温がある範囲に収まるような環境であれば投入温度の調整のみで1年を通して、各豆ごとに検討して組立てた火力プログラムを適用することで風味バラツキが少ない焙煎ができるという点について非常に魅力に感じています。

 釜の蓄熱と断熱に関しては、どちらも高くはないと思われますが、それは焙煎工程全域にわたって積極的に熱風(火力)を使った風味づくりができる自由度の高さを感じます。そのためには、熱バランス状態を正確に決めるコントロール精度が重要と思われ、当店では後述するカスタマイズに取り組んでいます。

 さらに構造についてより精密な視点で見たときに、各所調整して発生させた熱が豆の一粒一粒に均等に入っていくかということがムラなく仕上げる重要なポイントになりますが、それを実現するためには、釜内にある豆がよどみなく豆のあらゆる面にかつ均等に伝熱される状態を作り出すことが重要と思います。ナナハン焙煎機の撹拌羽はその点が考慮された設計になっていると思われます。

ナナハン焙煎機

 ナナハン焙煎機(独自カスタマイズ)

・基本仕様:直火式、バーナ4,000kcal max.、排気ファン回転数調整(単相電力調整式)

・カスタマイズ:※後述一部紹介

ナナハン焙煎機のカスタマイズ

─  Technical solutions for optimum roasting ─

ナナハン焙煎機 コントロールBOX

▻ [1] [5] artisan

 焙煎工程モニタとして「artisan」を導入しています。artisanは外部機器とModbus通信が可能なため、豆温度計(温調器)および高精度ダンパー(後述)をシステム化して焙煎モニタのみならずダンパーの自動制御化もしています。これにより、焙煎中にマニュアル操作する個所は原則火力のみとなり、焙煎中の豆の状態および焙煎機内熱バランスにより集中することが可能となりました。

 焙煎レシピの開発には、artisanの温度上昇率グラフに着目しています[※]。これは、焙煎工程全域にわたって豆を目視するだけでは把握しきれない豆の反応や状態の推定に有効活用できます。また、artisan導入にあたり熱電対(温度感知部)からPCへの信号変換にPhidgets社製品を採用しているケースをインターネット上で多く見ますが、万が一PC接続が切断されても温度モニタを継続できるようにRS-485通信仕様の表示付き温調器を選択しました。

[※] 温度上昇率のグラフは当店環境における焙煎機内外の熱収支を制御した結果得られる“生豆の反応”を表していますので、プロファイル(グラフ形状)が一定になるように制御はしていません。生豆の反応を見て火力制御をしています。

 

▻ [2] [3] 高精度位置決めダンパー

 ダンパーは、焙煎機と排気ファンの間に介在する流量制御機構です。ナナハン焙煎機にはバタフライバルブが採用されています。

 焙煎工程中に行う流量調整は、蓄熱状態、熱伝達率、不要成分の排出に関わり、結果的に香りや味を再現する重要な焙煎条件の一つです。

 当店では、この流量調整について、排気ファン回転数とダンパーの開度の組合せで行っています。排気ファンは排気流量(厳密には対流熱と蓄熱のバランス)をある基準値にそろえるために使用し、ダンパーは焙煎中の温度上昇に伴う流量変化の補正に使用しています。

 排気ファンは、回転数を変化させることで広範囲にわたって流量調整できるため、室内外単位で起こる季節性の熱移動やエアコンの熱交換といった焙煎機の蓄・放熱に影響をおよぼすような比較的大きめの熱移動に対する調整に使用しています。これに対しダンパーは調整幅は狭いものの、排気ファンで決定した基準流量を100%としてダンパー開度(%)という無次元量を使用し季節によらない工程管理が可能となります[※]。

 当店では、以上のような使い分けをしております。また、焙煎工程中はファン回転数操作による静圧変化がないため吸排気バランスを崩しにくいというメリットがあります。

 ここで“風味再現”という観点でダンパーを利用するとなると、流量調整バタフライバルブ(以下バルブ)の角度許容誤差は、これまでの焙煎記録から±0.1度と割り出され、“バルブの高精度角度位置決め”という技術課題に取り組む必要がありました。このバルブ位置決め作業は焙煎1工程あたり4~5回設けており、すべての位置決めを正確にこなした場合にはじめて想定した風味に仕上がります。この位置決め作業に関して、これまでは目盛板に刻んだ細いケガキ線を目安に目視で調整していましたが、必要精度±0.1度ですべてをこなすことは難しく、目視作業の誤差が風味のバラツキとして表れてしまいました。

 そこで、電子制御によるバルブ角度位置決め機構を設計・製作・組込み、より確実な風味調整および高い再現性が得られるようになりました。

[※]正確には、ダンパー開度は制御上のパラメータとして利用しており、実際には圧力損失を制御していることになります。つまりダンパー部で発生させた圧力損失のために流体のエネルギ保存則/ベルヌーイの定理が成立しませんので、静圧は低下し、結果流量も減少します。この現象を利用したバタフライバルブの特性は、「イコールパーセント特性」つまりダンパー開度と実流量の関係は約比例する関係となり、開度%と流量の関係を事前に測定しておくことにより流量制御が可能となります。またダンパの設置個所について当店の実験環境においては、排気ファン後(デリベリ側)設置はサージングを容易に起こしてしまったため、一般論に準じてファン前(サクション側)の設置のまま利用しております。

▻ [4] 排気ファンの出力調整(釜内熱バランス調整)

 排気ファンの回転数(以下、ファン回転数)を調整するためのダイヤルについて、調整目盛を細分化しています。

 毎回、焙煎直前に排気流量の調整作業を行っています。これは、風味が曇らないように水分等の不要成分を排出しきる排気の強さと、豆表面のみ焙煎が進まないようにゆっくりと熱を伝えるための排気の弱さ、この相反する条件のバランス取りが目的です。

 この排気の強弱を、従来は排気量(風速×管径)で管理していましたが、その場合には、釜内熱バランスにばらつきが生じていると思われる風味のバラツキが認められ、焙煎の失敗はないものの安定性に欠ける調整方法でした。

 この点について、焙煎機内外の熱移動解析を行い、その結果から正確な排気量調整方法を確立することで、釜内熱バランスを季節によらず意図した状態を再現することが可能となり、焙煎時間の再現性と風味のより高い再現性を実現しました。

 この熱バランスをより安定化させるために蓄熱や断熱を強化する改造も考えましたが、安定性を高くすることは、すなわち機動性を低くすることとなり、ナナハン焙煎機の特性(魅力)が損なわれると考えましたので、リアルタイムな状態把握と調整精度を高めて精密制御するという方向で取組んでいます。

▻ [その他] 排気ファン吸排気系の最適化

 焙煎機内部からの排気は、強制排気用の電動ファンおよび薄皮(チャフ)回収用のサイクロンを経由していますが、このファン前後つまり吸排気の圧力バランスがある温度範囲においてハンチングやサージングを起こす不安定領域があり、その影響が風味にも表れていました。これを解消するために、既存部品の追加工および改良部品への置換えをすることで排気系全域にわたり圧力損失の低減を図り、プロセスの安定化とともに風味を大幅に向上させることができました。

 また、低圧損化により設定風量に必要な排気ファン出力は小さくなり、結果、調整レンジが狭まることで調整精度が低下してしまうことを懸念していたのですが、結果は逆で排気風量調整の分解能・精度が向上しました。

▻ [その他] 主軸アライメント調整による耐久性改善

 焙煎機における耐久問題は、豆を撹拌するための回転機構がある場合は、荷重および熱的負荷がかかる回転部に集中すると予想できます。

 ナナハン焙煎機も同様の機構をもち、さらにその構造はシリンダを片持支持するようになっているため、大きめのモーメント荷重が耐久性に対する懸念事項になります。当店マシンにおいては稼働開始から18か月でギアボックスから油膜切れと思われる異音が発生し、ギアボックスを含むモータユニットの交換をしましたが12か月経過で再度異音の兆候がありました。

 これは一見、シリンダ荷重が、軸受支点のモーメント荷重となってモータへの過負荷になっていると見積もってしまいそうですが、荷重や寸法の実測値から概算したモータへのモーメント負荷はカタログ許容値の1/7程度しかかかっておらず、問題となるモータへの負荷はシリンダの荷重を受ける軸受とモータの軸心ずれによって発生するこじりが過大なモーメント荷重を発生させているためと予想できます。

 

 実際に、回転周期と一致する大きめのうなり音・振動・モータブラケットの左右揺動、シリンダ軸のトルク伝達キーの摩滅があり、また、シリンダ軸は歳差運動(みそすり運動)が目視で確認できる程度にありました。

 これら一連の不調はモータ軸をこじるような運動による歳差運動で説明ができ、軸心アライメントを十分に調整することで抑えることができると思われました。

 当店では、剛性向上を図るための一部部品交換と、調心アライメントの調整幅を拡張するためにごく簡単な追加工、加えて軸心のアライメント手順を標準化することで、歳差運動をきわめて小さいレベルまで抑えて耐久性の向上策を実施しました。その効果は、調整作業後1年以上経過観測しましたが、異音発生なく、かつ前蓋スキマは季節によらず±0.02mm以下を無調整で維持できており良好です。

 今後モータ・軸受の交換作業や軸心調整で焙煎業務を長時間停止させなくて済むように、さらに前フタとの平行度・すきま調整を加えた作業手順・方法のマニュアル化をしております。

各種測定の重要性

 生豆の状態、焙煎機の操作、焙煎後の豆の香り、粉砕の状態、抽出液の様子など日々微妙な差異を感じ取り、各種測定器で数値化した物理量によりその感覚を確かなものにしています。

・新入荷の生豆水分%測定<水分計>→焙煎プロセス組立ての指針(投入温度とプロセス序盤)

・焙煎度測定<色差計> →焙煎豆の外・内の差から火力調整

・排気量調整<豆温度計・排気温度計> →各バッチごとに調整。調整マップ。

・焙煎直前に生豆の温度を測定<放射温度計> →投入温度の決定

・抽出液の濃度・pH測定<TDS・BRIX濃度計、pH計> →焙煎条件の補正

・エアコンの仕事率モニタ → 室内・外の熱移動方向の把握

日本ケツト Kett 水分計
​生豆水分%測定
水分%の多・少により投入温度や焙煎工程序盤の火力の高・低を決定するための目安にしてます。“目安”とは言え、条件を絞り込むための工数が少なく無駄にする豆が少なくて済むようになりました。
焙煎度測定
焙煎度測定
通常“焙煎度”は苦みや酸味などの風味バランスの目安として表示されるものですが、当店では豆の外・内側の測定値から焙煎工程における火力調整が適切であったかの判断材料として利用しています。
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