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執筆者の写真TOMOCHI COFFEE

モノdesign(5):店内照明

◎照明計画


 当店の内装デザインは、SketchUpという建築系デザインソフトのフリー版を使って造作や什器レイアウト検討、動線確認、壁紙・床材の仕上がりイメージの確認などを行いました。

 特に、壁クロスや床材は、メーカー開示の壁クロス・床材画像データをSketchUp内の壁に貼付けることで、かなり実際に近いイメージで確認できた点は非常に有効でした。

 また、SketchUpから2次元図面を起こして、工務店への発注仕様書(図面、電気まわり、設備仕様等)を作成するところまで行っています。


 ただ、事前に検討できなかった部分が“照明”です。SketchUpの有料版にアドインなどを追加すれば照明シミュレーションもできるようでしたが、1か月程度の利用で年間維持費をかけたくなかったため、店舗完成後に照明配置や器具などを検討できるようにすべてダクトレールのみで構成することにしました。



図1 SketchUpによる内装検討


図2 出来上がった店舗内装



◎照明器具の選定


 店内天井に設置した照明器具は、お客様から見える範囲はすべて、ダクトレール+LED電球の構成のみにし、器具色も天井クロスと同系のにして、器具形状も限りなくシンプルなものを選びました。これは、視界に存在感を出さないようにするためです。


 存在感をより出さないという点では、埋め込み型ダウンライトが最適とは思いますが、初期コストの高さ、照明の当たり方などを計算した配置の難しさ、作業エリアや商品の配置に変更があった場合の柔軟性のなさなどから採用は当初から見送っていました。


 今回、採用した器具は2種。1) スポットタイプ、2) T形電球タイプです。この2種は目的によって使い分けしています。

 ちなみに、コストはスポットLEDはソケット込みで1基あたり1,000円、T形はダクトレール用ソケットと合わせて1基あたり800円でした。


図3 採用したLED電球(左:スポット、右:T形電球)




 内装デザインの検討段階では、天井から吊り下げる傘のついたタイプ、いわゆるペンダントタイプも考えました。


図4 採用を見送ったペンダントタイプの例

 ペンダントタイプは、傘などのデザインによって店内の印象づくりが比較的容易にできるという点に魅かれます。そのほかにも店舗外からも灯りが見えるため営業中かどうかわかりやすいなど。


 逆にデメリットとしては、天井から吊り下げるため視線に入りがちでまぶしく感じたり、傘にたまるホコリを定期的に掃除する必要があったり(付随して周辺を養生する作業も発生)、照明の真下のみが明るい、エアコンの風が当たる場所ですと揺れてしまうなど使い勝手という面で採用しづらい点がありました。


 これらのメリット・デメリットを踏まえつつ、内装デザインの目的・方向性は「コーヒー豆のプライスカード・陳列を際立たせる」ということを確認し、照明器具には存在感をなるべく持たせないということでデザイン照明の採用はしないということにしました。


図5 コーヒー豆のプライスカード・陳列台




◎どうやって明るく見せるか


 照明計画において“明るく見せる”ということは命題ではありませんが、今回は路地奥に灯りがある店舗を作りたく“明るくみせる”を課題としました。


 前店舗の照明について思い出してみると、照明器具の性能としての明るさは、目安となる“適用畳数”的には十分だったはずなのですが、曇りの日に外光が弱めでも、外・店内かかわらず暗さを感じることが多くありました。


 そもそも、“明るい”というのは器具そのものの明るさ(性能)だけではなく、照らされた対象物を見て明るいと感じる場合がほとんどだと思います。たとえば、壁だったりテーブルだったり、事務仕事であれば書類の文字が見やすいなど。


 つまり、光源の明るさを上げるよりも、見せたいところを照らすという方が効果的と考えました。


 それにともない、当初壁紙はコーヒーショップらしさや落ち着き感を出そうとダーク系を検討していましたが、この理由からホワイトないしグレー系に変更しました。





◎照明を使う


 お客様が滝山中央通りから路地に入り店舗にアプローチする過程を考えると、次のような視覚上の過程をたどると思います。


 ①遠くから店舗外観が見えてくる(立て看板で営業中を示唆)、


 ②店舗に近づくにつれ内装が目に入ってくる。


 ③店内に入り内装に囲まれる。





②と③については、照明を活用したいと考えていました。


 ②の段階では、店外から内装を見ることになります。この場合、いちばん目に飛び込んでくるのはです。ただ、昼間は外光が強めなため、漫然と明るくしても外からでは“明るさ”を認識しづらいと思います。そのため、スポットでコントラストをつけるように照らすことにしました。


図6 外からの内装の見え方

 実際に使用するスポットLED電球はAmazonで選定、購入しました。低コストなスポットLED電球だけでもたくさんの製品があり、選定基準が必要と考えましたが、今回は平均演色評価数(Ra)に着目しました。


 壁をある程度広い面積で照らすためRa80くらいの製品だと、色味に不自然さを感じてしまうため、Ra85以上の高演色性の製品を探しました。実際に採用したものはRa95と高演色性のものです。


 ただ、低コスト品ですので、色味や光量のバラツキはある程度仕方ないというスタンスでした。やはりバラツキはありましたが、実際の取り付けを工夫し、隣どうしは色味・光量差が小さくなる組み合わせになるようにしています。 




 そして、③の段階では、店内に入る瞬間から商品紹介カード(プライスカード)が目に入ってくるという構造にしているのは過去記事で書いた通りです。商品紹介カードのあたりを間接照明で強調しています。


図7 店内に入る瞬間の見え方

 店内の明るさについて、“なるべく明るく”という方向にしてしまうと落ち着かないという逆効果もあると思います。今回は“明るく”というよりも“薄暗くない”という方向で照明の設定を考えました。



 では、“薄暗い”と感じるのはどういうケースなのか。



 照度計で測定した何かしらの基準値がありそうですが、どちらかというと感じ方の問題としてとらえた方がよさそうでしたので、照明を仮設置した店内で実際に立ち眺めてみたところ、角・隅の照度が手薄だと薄暗さを感じるのではないかと思いましたので、実験してみると、やはり視覚的印象は大きく違いました。


 よくわからないなりに分析してみましたが、角・隅は向きの違う2面もしくは天井を含めた3面が隣接しているため、薄暗さが強調されやすいのではないかと思います。逆に、角・隅を照らすことで明るさを強調できるということにもなるのだと思います。


 すべてスポット光でまかなってしまおうかと思いましたが、天井もある程度照らすことによって空間的広さを出したいと思い、照射角300度のT形LEDも利用しています。



 ここで使用した電球の色温度について。


 スポットは昼光色(6000K、オフホワイト・青白系)、T形は昼白色(5000K、太陽光あたり、昼光色よりはすこし黄味寄り)と一致させてません。すべて昼光色(青白)で揃えてしまうと清潔感は出るものの、目が覚めるような印象で落ち着かなくなってしまうため、環境光的に使用したT形はあえて昼白色(太陽光)の柔らかいものを使用しました。


図8 プライスカード陳列台の横壁(左側)も照射


図9 作業場いちばん奥の天井隅をあえて照らすことで薄暗さを低減


 今回は当店の照明計画について書いてみました。


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